身体哲学研究所
Osteo-Somatics骨の身体論
近代の身体論(somatics)は西洋の哲学の一領域として、より具体的にいえば20世紀半ば現象学の延長として
フランスのモーリス・メルロ=ポンティがめざした“生ける身体”を考察する世界として始まったといってもいいでしょう。
もちろん、同時代にアフォーダンスという生態心理学を創り上げたギブソンの探求した世界も身体論の世界であったし、
ポンティに先行するアメリカのウィリアム・ジェイムズの残した生理学、心理学、哲学の業積もすぐれて身体論の世界です。
もう一人ウィアムス・ジェイムズも賞賛した、忘れてはならないフランスの哲学者として、『創造的進化』を著したベルクソンがいます。
さらに同時代に生きたポール・ヴァレリーの詩や批評の世界も広い意味では身体論だといえるかもしれません。
話は前後しますが、ポンティが死んだ後の20世紀後半から21世紀にかけて、実はハイデッガーで終わってしまった哲学は、
フーコーやドゥールーズ・ガタリやアガンベンを含めて、生きのびているのが身体論にからむ哲学だけという様相を呈しています。
もちろん、認知科学や言語哲学、複雑系の生物科学も身体を中心テーマにして進んでいます。
ヴァレラ亡き後、ステュアート・カウフマンの自己組織化やアルヴァ・ノエのエナクティブ・アプローチなどの生命の新しい方向を試索している知も身体をめざす知であり、
身体の哲学、身体論のヴァリエーションだといえましょう。
日本に目を移すと、西田幾多郎を始めとして、実は日本の身体論、身体哲学は一貫して高いレヴェルの仕事を残しているのです。
仏教、禅宗系の身体哲学としては西田幾多郎、鈴木大堀、和辻哲郎、西谷啓治の著作やより広い仏教学、宗教学の身体哲学では、玉城康四郎や井筒俊彦の仕事も重要です。
他に武道と仏教を結びつけた、富永半次郎という在野の身体哲学者もいますし、その弟子でもある人にゲーテやヘッケル、クラーゲスに学んだ精神科医千谷七郎や形態学者三木成夫がおり、
彼らも独自の身体哲学、あるいは身体論を展開しています。
さらに近いところではヴァレリーやポンティを学んだ市川浩や鷲田清一の身体論や中村雄二郎、大森荘蔵の知覚論、さらには坂本百大や唐松渉の心身二元論の超克をめざした身体論もあります。
この他にも説明が長くなるので省きますが、武道・武術の身体論や芸道系的・演劇的な身体論、
および野口三千三や野口晴哉などの民間医療的な身体論など、21世紀の現在、本当にたくさんの身体論があります。
では、身体哲学研究所の掲げる“骨の身体論”とはいかなるものか。
それは70年近く前のロシアの不遇の運動生理学者二コライ・ベルンシュタインを除き、従来の身体論に決定的に欠けている五億年の動物の進化を踏えた骨(骨格)の観点からの身体論です。
身体哲学研究所では近年進歩の著しい古生物学、特にピーター・ウオードに代表される、恐竜学(骨学)の最新知見などを参考にして、運動学、健康学、リハビリ学を一新する画期的な成果として、
骨文法(Generative Grammar of Osteology)を確立しました。
さらに身体哲学研究所はその骨の身体哲学を骨の身体論(Osteo-Somatics)として展開する一方で、その実践指導のための様々な方法論を開発しています。
Generative Grammar of Osteology骨文法
「骨の生成文法」の「生成文法」(Generative Grammar)とはいうまでもなく言語学者チョムスキーの『生成文法』から拝借したことばで、
「生成」(generative)とは言語より当然ながら“からだ”・”骨“にこそふさわしいと30年来考えて続けてきて身体哲学研究所のひとまずの成果が見えてきた段階で
「骨文法」あるいは「骨の生成文法(Generative Grammer of Osteology)と命名したのです。
しかし、チョムスキーの生成文法(Generative Grammar)という言語理論の名前が単に“からだ”や“骨”の理論の名称にふさわしいというだけでこの名前を拝借したわけではありません。
そこには、多少、哲学的な洞察がありました。ことばの世界はある意味で、詩などの言語芸術の世界で顕著ですが、限りなく自由で創造的な世界のように思われます。
確かにどんな新しいことでも未知のことでも思うままの表現が可能なようですが、実はことばには厳然たる基本法則(文法)があり、
これを守らないと、単純にことばとして成り立たないのです。そしてこれとほとんど同じことが“からだ”についてもいえるのです。
“からだ”も一見、バレエや世界中の踊りのような身体芸術をとして、あるいはスポーツとしてどんな動きでも自由に創造できるように思われます。
しかし、同時に、その動きは“骨”の構造に規定されています。
骨格の構造を超えた動きはできないという意味で、ここには、ほとんど「文法」と呼ぶしかない厳然たる法則が存在するのです。そこでそれを「骨文法」と名付けたわけです。
身体哲学研究所(勇崎賀雄)の創案した「骨文法」は普遍的かつ実践的でなければならないので
ヨーロッパで16世紀にヴェサリウスが確立し現在も医学の柱となっている解剖学(anatomy)との互換性が必要となります。
そこで基本的な解剖学用語は踏襲していますが、独自の骨の分類法を行い、いくつかの要点となる用語(概念)は身体哲学研究所が創案したものです。

