からだの動かし方の基本

地球上の動物は「重力」をベースに骨と関節が創り出す「振り子」と「テコ」の原理で動く。(もちろん、その時、骨と関節をつなぐひも状の腱の力を借りている。しかし、ここでは腱と骨格筋(アウターマッスル)とは区別する必要がある)
基本的に蛇腹状の背骨の軸をバネとして、魚は尾ビレと背骨の連動したヨコの振り、哺乳類は、頭・肩・胸・腰・腹のタテ(前後)の振りを原動力として動く。
人間を含めた四肢動物は背骨の軸の動きをメインとして、それに付属肢である手・腕、足・脚を連動させて動く。あるいは逆に、手・腕、足・脚の動きに背骨を連動させて動くといってもいい。
 これを骨格の構造でいうと、背骨という主軸と、左右2つの手・腕、足・脚の2軸を統合させて動いている。(3軸統合)

(序章)

まず、からだ全体の連動した動きを客観的かつ実感(主観)として知る(理解する)必要がある
科学は機械論的な要素還元主義という発想がベースにあるので、生命体の全体の動きや活動を理解するのには限界がある。
 
そこで、少し難しいが、何にでも応用がきくからだの全体のまとまった動きをまず示しておく。(これを身体哲学研究所および「骨と呼吸の勇崎メソッド」では、湧氣行法と、名付けている)
 
 初級者には、この動きがからだのどこから発動し、どのようにして全身と連動しているかが分かりにくいかもしれない。実際、特定の筋肉といった部分から動いているのではない。同時的、全身的に能動的でも受動的でもなく、自然に自発的(Spontanious)に動いているのである。

 さらに説明を付け加えれば、からだの中心から、内側、内部から動いているのである。したがって、身体の外側にある筋肉は直接に動かしていない(全身の動きに連動して動いている)
これが骨格筋は基本的に脱力状態で限りなくニュートラルな状態にした「骨と呼吸の勇崎メソッド」のからだの動き方、動かし方である。

湧氣行法

実 践

(第1章)

バランスの取れたからだ全体の動かし方

・転身(背骨を軸にからだを旋回)
・天芯(垂直に天に向かう軸、「天人地」、植物性身体『脳ひとり歩き』参照
・天真(爛漫)

まず、背骨を軸にして旋回する
タテにからだを5分割する
下から
①足首・中心は距骨(カカトは少し浮かせる)足の位置は動かない
②膝、足首を連動してなめらかに回転する(ヒザとカカトの連動を注意する)
③腰、腸骨、坐骨と仙骨がまとまって自然に旋回する。筋肉、大殿筋、中殿筋や太ももの筋肉(大腿四頭筋)は基本的には使わない
④胸と肩
肩や腕から動かさない。背骨の軸(胸椎)からの連動で自然に動かす。筋肉は使わない。上腕の筋肉(上腕二頭筋・三頭筋、三角筋)も肩甲骨の筋肉(上円筋、小円筋、大菱形筋、小菱形筋、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、前鋸筋)も背中の筋肉(僧帽筋、広背筋)も基本的には使わない。

⑤首・頭
基本的には頭は背骨の軸の回転に準じて旋回します。頭(頭蓋骨が頸椎に突き刺さった状態で少し浮いているのが理想の形ですから、私は「頭は重たい」アドヴァルーンと言っています。浮いていますが、それなりの重さ(5~7Kg)があるので、テコ、振り子で、原理でいえば立派な“おもり”なのです。では、この5つがどう連動したらいいのか具体的な実践方法を述べます。手・足の指であれ、四肢五体であれ、5という数字、あるいは5分割というのは人間のからだを幾何学的にとらえた時、非常に重要です。しかし5つというのは数が多すぎてバラバラになって、初心者には全体のバランスを取るのが大変むずかしいのです。そこで私(身体哲学研究所、および湧氣塾)で、5分割の前に、3分割を使います。しかし、3つのことを同時に意識する(考える)ことはそうやさしくはありません。そこで、実践として、リズムを上手に使うように指導しています。

具体的に説明しましょう。テンシンを振る(からだを旋回させる)
膝・腰・胸(肩)と3分割して、下から「ヒザ・コシ・カタ・ムネとかけ声をかけて、リズミカルにからだを下から旋回していきます。そして、旋回がおよそ1秒というのが大切です。
1秒はほぼ心拍のリズム(1分間で50〜70回)だからです。

(第2章)

足・脚の動かし方

足・脚で一番大切なのは足の指、とりわけ親指の骨です。
これについては『「80歳の壁」を越えたければ足の親指を鍛えなさい』(講談社+α新書)で詳しく書いたのでここでは詳しく説明しません。基本である足の親指の使い方中級以上の上級編についてはここでは距骨と小指球が重要だという指摘をするにとどめます。

デリケートなからだの動かし方の妙法は現場で実践的に教えるしかないので、真摯にからだを探求したいという方は是非一度湧氣塾あるいは身体哲学研究所の門をたたいて下さい。からだは本来、非言語的な世界ですから、ことばで説明するには限界があるのです。そうはいっても、真面目に知りたい、習いたいという人には出来る限り言語的説明もします。

まず、足・脚の使い方には、私が足の三大構成要素と呼ぶ足の指とカカトを含む足首の関節と足の甲(中足骨)いいかえれば足の裏の「土踏まず」の使い方が大切です。

ナイキ、ニューバランス、アシックス、などのジョギングシューズは
ソウルという足の裏を保護し機能的に支える足底が内臓されているので、わたしのいう足の三大構成要素を別々に動かす(機能させる)
ことができないので、中・長期的にジョギングシューズを使っていると、足の骨は弱ってしまいます。

実際アスリートでも足底腱膜炎を起こす人が少なくありません。したがって、素足をベースに足の骨を強化して、まず、カカトとヒザの連動、さらにはカカト、ヒザ、股関節、腰の仙腸関節を連動させる必要があるのです。足・脚も使い方に腰の骨(仙腸関節)が出てきましたが、解剖学的には腰骨まで足の付属部分なのです。

(第3章)

手・腕の動かし方

手・腕の動かし方の基本も、足・脚の動かし方と同じで、先端、つまり手の指から動かします。

骨の構成は14個の指骨、5つの中指骨(手の甲の骨)、手首の2列8つの手根骨、つづいて、前腕の2つの骨(橈骨・尺骨)上腕骨、合計30個の骨で成立しています。厳密にいえば、それに肩甲骨も含めて、手・腕の骨(付属肢骨格)といいます。

湧氣塾および身体哲学研究所では、まず、指骨の強化から始め、次に中手骨(手の甲)と指骨との連動、さらに手首、手根骨の使い方と指骨と中手骨と手根骨の連動のさせ方を教えます。
そして、次に手首と前腕の使い方、ヒジ関節の使い方を教えます。簡単にいうと、上腕はほとんど使わずに、前腕とヒジ関節の使い方、つまり極力筋肉を使わずになめらかに、手・腕を使うかということになります。
そして、最後に非常に重要な腕と肩と肩甲骨の使い方を学習する必要があります。

(第4章)

胴体(軸骨格)の動かし方

身体哲学研究所では、人間が動く原動力は筋肉ではなく、
重力をベースにした、振り子とテコの原理、基本的には背骨のバネで大元の原動力および呼吸だと考えています。

チータのダイナミックに疾走する姿を見て下さい。
背骨を中心とする骨の躍動だということが分かるはずです。
足・脚の筋肉はチータにしても、もう一方の走りの王者サラブレット(馬)にしても思いのほか、か細いのです。動物は背骨を中心にした骨の連動によって動いているのです。

もちろん、筋肉もある程度動物の動きに力をかしています。しかし、筋肉も筋トレで鍛えられるアウターマッスルではなく、ほとんど強化することのできない、強力なゴムのような腱の力を借りて動いているのです。さて、では胴体・軸骨格はどう使えばいいのでしょうか。まず、人間の背骨は前後にS字に弯曲しているので、イルカのドルフィンキックのように前後のS字のしなりを利用して動かします。

直立したからだを、下からまずヒザが前に曲がり、次に腰が後ろに曲がり、胸が前に、そして肩・肩甲骨が後、そしてアゴ、顔、頭が前というふうにしてジグザグにうねるように動かすと、足(下)から、頭(上)の方向に動きのダイナミズムが生じるのです。このタテ、前後、上下の動きに、腰・肩の左右のうねりが加わります。

背中から人間のスケルトンを見ると2つの腰骨(腸骨)と2つの肩甲骨が目につきます。この4つのかなり大きな骨(扁平骨)が背骨を左右にゆさぶることになります。背骨をタテのS字にうねらす動きと、この腰骨(腸骨)と肩甲骨のヨコのゆさぶりが、背骨・軸骨格のおおきなダイナミズムを作って入りのです。

その軸骨格の動きは、バレエや踊りのような旋回を作り出すこともあります。もうひとつ背骨・軸骨格の動きで大切なことは、手・腕、足・脚の付属肢骨格と調和・連動させることです。身体哲学研究所では、これを背骨・軸骨格と手・腕、足・脚の付属肢骨格との統合、2軸統合、3軸統合といいます。

(第5章)

全身をつなげた(連動させた)動かし方

最後に全身をつなげた(連動させた)動かし方呼吸(氣)を使った からだの動かし方として、上級の「湧氣行法」を行ってみましょう。この動きは、ほとんどの人にどこから動いている動きなのか分からない動きです。まず動画で私の動きを見て下さい。手・腕は手首から先が動きを導いています。手の指、手の甲、手首と連動し、腕は前腕の動かし方が非常に大切となります。そして、上腕はほとんど動かそうとはしません。手・腕は上腕・肩につながっているというより腰骨、腸骨につながっている感じで動かします。もっというと、腸骨、骨盤の内側の骨盤腔と連動して動いているのです。骨盤腔が分かりにくい人は丹田から動いている感じで、丹田、肘、手首、指先という連動した動きです。